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松山家庭裁判所 昭和34年(家)211号 審判

申立人 山田万蔵(仮名)

未成年者 高山京子(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

当庁調査官の調査報告の結果及び申立書の記載その他本件にあらわれた資料を綜合すると、申立人には実子がないところから老後の淋しさを慰めることと申立人の家名を承継させることを動機として親族等協議の結果本件申立がなされたこと、申立人は健康事情も良好でない上に収入もなくその資産も僅かな為め現に生活扶助を受けており、かりに本件養子縁組が許可されても未成年者と日常生活を共にするものでなく、未成年者は引続きその実親において監護養育してゆくものであることを認めることができる。そこでこの事実に基いて考えてみるに、本件申立は家名承継を主たる目的として為されたものであること明かなところ、家の制度を廃止した民法の精神からみて家名承継のためのみの養子縁組はこれを許さないものと解すべきであるし、その他本件においては、かりに養子縁組が為されても申立人には養子を扶養する能力は全くないばかりか親権者として養子を監護教育することもその年令健康状況からみて現に監護教育している実親以上には望めないことであるし、しかも縁組後も引続き実親において未成年者の監護養育に当るというのであつてみれば、未成年者を申立人の養子にすることは単に戸籍上の操作に過ぎず同未成年者に何らの利益をもたらさないばかりか、親権を行使するに相応しい実親からこれを奪い親権を行使し得ない者にこれを委ねることになつて、民法が親権と監護権の分離を認めているにしても本件の場合にこれを認めることは未成年者の監護教育の面からみて適切でなく、むしろ実親が名実ともに親権者として従来に引続き未成年者を監護教育することこそ同未成年者のためにより多くの利益と幸福をもたらすものと解せられるところ、以上要するに本件申立は家名承継という目的のために未成年者を単に手段として利用するものであつて同人の利益と幸福を考慮して為されたものでなく、総じて個人人格尊重の精神に著しく背反するものといわなければならない。

よつて本件申立は相当でないからこれを却下することとし主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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